進化する医療用ロボット。コロナ禍で期待を集める

進化する医療用ロボット。コロナ禍で期待を集める

少子高齢化により、多くの業種で人手不足が慢性化しています。それは医療業界も同様で、特に最近では新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあり、人手不足の解消は喫緊の課題となっています。そこで、現在、大きな注目を集めているのが医療用ロボットです。手術のサポートはもちろん、診療事務や調剤、介護など、さまざまな医療現場にロボットの導入が進んでいます。今回はこの医療用ロボットについて、どういった種類があるのか、導入のメリット・デメリット、そして最新の動向をお伝えします。


医療用ロボットにはどんなものがある?

医療用ロボットとは、病院やリハビリ施設、介護施設など医療機関で使用されるロボットのことで、主に次のような種類があります。

・手術支援ロボット
・リハビリロボット
・医療事務支援ロボット
・調剤支援ロボット
・補綴ロボット

医療ロボットは大きく医療分野と介護分野に分かれますが、介護現場で使われる介護ロボットについては「介護職員や要介護者の負担を軽減すると期待されている介護ロボット、コロナ禍で普及が進むか」を参照してください。

「介護職員や要介護者の負担を軽減すると期待されている介護ロボット、コロナ禍で普及が進むか」を読む

手術支援ロボット

手術をサポートするためのロボットで、ロボットのカメラ映像を見ながら遠隔操作によって手術を行います。非常に精密な操作によって繊細な手術が可能とされています。手術支援ロボットは、アメリカ製の「ダビンチ」が有名ですが、最近では日本製の手術支援ロボットも登場し、市場が拡大しつつあります。

リハビリロボット

脳卒中や脊髄損傷などの後遺症で障がいを負った人のリハビリをサポートするロボットのこと。「両足に麻痺がある人の歩行をサポートする歩行支援ロボット」「歩行バランスが悪い人の歩行をサポートするつえロボット」「腕のリハビリロボット」などがあります。

医療事務支援ロボット

受付や問診など診療事務をサポートする、医療機関の無人受付用ロボットのこと。予約を受け付けたり、簡単な問診を行ったり、音声認識によって患者との会話から自動でカルテを作成したりします。

調剤支援ロボット

薬剤師が担う多様な対物業務をサポートするロボットのこと。「薬品の選択・秤量・配分・分包などの散薬秤量業務を行う散薬調剤ロボット」「医薬品を調剤時に取り揃えたり、調剤棚に補充したりする自動搬入・払出装置」「返品された医薬品を仕分けて処分する注射返品薬自動仕分け機」などがあります。

補綴ロボット

ロボット義手やロボット義肢などのことです。筋肉が発する微弱な電気信号を感知し、手や足を自分の意志で動かせます。

医療用ロボットを導入する4つのメリット

(1)高度な手術の成功確率が上がる

手術支援ロボットを活用すれば、人の手だけでは難しい繊細な技術を必要とする手術の成功確率が上がります。また、通常の手術の場合、医師は立った状態で執刀しますから、何時間にもわたる手術では医師への負担は大きなものがあります。しかし、手術支援ロボットは座ったままで操作するので、その分負担が軽減されます。そして、医師の疲労が少なければ、それによる医療ミスの発生も低減します。

(2)患者の負担軽減

病気の種類にもよりますが、「ダビンチ」では通常の手術に比べ、小さな切開で手術が可能です。傷を小さくでき、出血も抑えられることから、手術後の回復も早くなります。結果として、患者にかかる負担を軽減できます。

(3)医療スタッフの負担軽減と人手不足の解消

調剤、受付、問診などの業務をロボットが人に代わって行うことで、医療スタッフの負担が軽減でき、人手不足の解消に役立ちます。スタッフの負担が少なくなれば、コミュニケーションなどの対人業務の比重を大きくすることが可能となり、患者とより密接に関われるようになります。

(4)ヒューマンエラーの回避

医療業務は幅広く、多様です。しかも技術の進歩によって、次々と新たな医療機器や医薬品が登場します。それらすべてを人が処理すれば、どこかでヒューマンエラーが発生するものです。しかし医療用ロボットならば、そうしたヒューマンエラーを回避できます。

医療用ロボットを導入する3つのデメリット

(1)導入コストが高い

医療用ロボット、特に手術支援ロボットは高額です。たとえば、ダビンチの販売価格は2~3億円、維持費として年間1,000~3,000万円かかると言われています。今後、医療用ロボットが今以上に普及すれば、価格が下落する可能性もありますが、普及段階である現時点では、一部の医療機関を除き、なかなか導入に踏み切るのは難しいでしょう。

(2)操作を覚えるまでに時間がかかる

医療用ロボットは、必ずしも簡単に操作できるわけでも、すぐに熟練になれるわけでもありません。特に、手術支援ロボットやリハビリロボットは専門的な知識や技術を必要とし、使いこなせるようになるまで時間もかかります。

(3)費用対効果が低い

医療現場で思ったようなメリットを生み出せないことがあります。たとえば、手術支援ロボットは人の手では難しい手術の成功確率向上に寄与しますが、コストの高さから費用対効果が低いと言われています。また、手術では触覚が重要とされていますが、手術支援ロボットではその感覚を得ることができません。そのため、現段階では、熟練の外科医による執刀のほうが高い優位性を持つとされています。

コロナ禍での診療にも大きな効果を発揮すると期待される

医療用ロボットの代表格といえる手術支援ロボットは、日本でもアメリカ製のダビンチが独走を続けてきました。その牙城を崩すと見られているのが、2020年11月にメディカロイドが発表した日本初の手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」です。hinotoriは、外部から動作を確認できるネットワークシステムを搭載した、手術のDXを実現したロボットです。

MDB Digital Searchが2019年10月に発表した「手術支援ロボット市場規模・予測」によると、手術支援ロボット市場は2024年度に270億円規模にまで拡大すると予測されています。hinotoriの登場で、国内でも手術支援ロボットをはじめ医療用ロボットの普及が一気に拡大するのではないかと見られています。

医療用ロボットは、新型コロナウイルス感染症対策としても大きな期待が寄せられています。それは、医療ロボットによって遠隔診療や無人受付などが実現されれば、感染リスクのある対面業務を減らすことができるからです。たとえば、フィリップス・ジャパンの遠隔集中治療ソリューション「eICU」は、支援センターにいる専門医が複数の集中治療室(ICU)を遠隔でサポートする医療用ロボットです。ICUにいる患者の呼吸状態、血液の検査値、ICUの映像などを専門医に送り、AIで重症度を評価します。これにより、優先すべき患者を迅速に判断し、現場の医師へのサポートを可能にするというわけです。2018年にeICUを導入した昭和大学では、リアルタイムに患者をサポートできるeICUは新型コロナウイルス感染症対策に役立っているとコメントしています。

医療用ロボットは医療現場の救世主となるか

手術、リハビリ、調剤など多様な医療業務をサポートする医療用ロボット。まだ価格面や操作性などいくつかもの課題がありますが、AIとロボット技術の進化によって、これらの課題はいずれ解決されていくでしょう。医療業務の効率化で医師や看護師などの医療関係者をサポートし、その負担を軽減する医療用ロボットが、医療現場の救世主となる日もそう遠くはないかもしれません。

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本記事は2021年08月20日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもとに安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

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