コロナ禍で増大する介護職のストレス。ストレスチェック制度でいち早く心のケアを

コロナ禍で増大する介護職のストレス。ストレスチェック制度でいち早く心のケアを

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で生活様式が一変し、多くの方が不安とストレスを抱えて働いています。特に介護の現場では、利用者の感染・症状の重篤化だけでなく、自身への感染不安からもストレスが高まっています。care for careworkerプロジェクト実行委員会が全国20歳以上の介護・福祉従事者224名を対象に行った「介護・福祉従事者の新型コロナウイルスに関する意識調査 」(2021年2⽉15⽇~18⽇)によると、回答者の85%が感染拡大前よりも仕事に心理的なストレスを感じていると回答しました。そこで今回は、ストレスチェック制度についてお伝えします。


介護職は何にストレスを感じるか

介護業界は、慢性的に従業員のストレスが溜まりやすい業界だといわれていますが、彼らはどんなことにストレスを感じているのでしょうか。ここでは、公益財団法人介護労働安定センターが令和2年(2020年)8月に発表した「介護労働者の就業実態と就業意識調査 」から、介護職の方が感じている悩み、不安、不満をみていきます。

まず、「労働条件等の悩み、不安、不満等」で回答が多かったのは次の項目です。

・人手が足りない(55.7%)
・仕事内容のわりに賃金が低い(39.8%)
・身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)(29.5%)
・有給休暇が取りにくい(27.6%)
・精神的にきつい(25.6%)

「人手が足りない」の項目は、訪問系、施設系(入所型)、施設系(通所型)のいずれの職種でもトップとなっています。それが、下位の「休憩が取りにくい(22.6%)」「労働時間が不規則である(11.3%)」「労働時間が長い(9.0%)」といったストレスにもつながっていそうです。

次に、「職場での人間関係等の悩み、不安、不満等」では、次のような回答が上位を占めました。

・部下の指導が難しい(20.6%)
・自分と合わない上司や同僚がいる(20.2%)
・ケアの方法等についての意見交換が不十分である(20.1%)

そして、「利用者及びその家族についての悩み、不安、不満等」では、次のような回答が上位を占めています。

・利用者に適切なケアが出来ているか不安がある(39.7%)
・利用者と家族の希望が一致しない(23.0%)
・介護事故(転倒・誤嚥その他)で利用者に怪我をおわせてしまう不安がある(22.8%)

労働環境、職場での人間関係、そして利用者やその家族との関係。このように、介護の現場ではさまざまなストレス要因があります。

ストレスチェック制度を利用して、介護職のストレス度合いを見える化する

ストレスチェック制度とは?

ストレスチェック制度とは、従業員50人以上の事業所に対して、従業員の心理的な負担の程度を把握するための検査を年1回実施することを義務化する制度のことです。平成27年(2015年)12月に施行されました。なお、従業員50人未満の事業所に関しては当面の間、努力義務とされています。

制度では、調査票を用いて従業員の「仕事」「直近1ヶ月間の自身の状態」「周囲の人々」「満足度」などについて、簡易調査を行います。その結果からストレス度合いを点数化・評価し、本人に通知。必要に応じてセルフケアを指導したり、高ストレス者が発見された場合、医師による面談や相談窓口の案内などの実施が推奨されています。

そして、この検査結果は、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。なお、この結果を就業上の措置に必要な範囲を超えて本人以外が閲覧すること、ストレスチェックに関する労働者の秘密を事業者が不正に入手することは禁じられています。また、この結果によって従業員が不利益を被るような事態を防止するために、この結果を理由とする雇止め、退職勧告、降格、理不尽な配置転換などを事業所が行うことは禁じられています。

なぜ、ストレスチェック制度が導入されたのか

ストレスチェック制度が導入された要因には、「少子高齢化による生産年齢人口の減少」「働き方改革」などがあるとされています。現在、多くの業種で人材不足が慢性化しつつあるなか、働き方改革を実現させながら企業を持続的に成長させるためには、どうしても従業員に多くの負担がのしかかるからです。

精神障害による労災補償の請求件数の増加も要因の一つでしょう。令和2年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害による労災補償請求件数は2,051件で過去最多でした。5年前(平成27年度) と比較すると500件以上も増加しています。また、2,051件のうち支給決定件数は608件で、こちらも過去最多です。これは氷山の一角です。ストレス環境を我慢して働き続ける労働者は想像以上に多いのです。こうしたデータは、企業が労働者の負担軽減、心身の健康の維持のためにメンタルヘルス問題に真剣に向き合うべきであることを示しています。その具体的な取り組みとして、ストレスチェック制度が導入されたといえるでしょう。

ストレスチェック制度の2つの目的

ストレスチェック制度の目的は、大きく2つあります。

■従業員個人のストレス状況の把握
従業員個人のストレス状況を見える化し、その結果を本人に知らせることで、自覚のないストレスも含め、自らの状況を把握してもらいます。仮にメンタルヘルス不調の兆候があれば、セルフケアを指導したり、医師による面談や相談窓口につなげて、メンタルヘルス不調による精神疾患(障害)や休職・退職を未然に防止します。そのため、この制度は精神疾患により職や収入を失う可能性がある従業員、人材を失う可能性がある企業双方にとって効果的な対策となります。

■職場環境の改善
職場でのストレス要因を明確にし、勤務形態や組織の見直しなど、職場環境改善のための措置を講じます。これにより、長時間労働を防ぎ、従業員の疲労や過度の責任などが生じないように配慮、従業員がメンタルヘルス不調に陥るリスクを低減します。

介護職のストレスを軽減する

ストレスを認識したら、それを軽減・解消させることが求められます。ここではセルフケアだけでなく、事業者側がやるべき対処方法をご紹介します。

従業員が自分でできるケア方法

■プライベートと仕事を切り分ける
仕事は仕事として、プライベートな時間に仕事のことを考えない、ストレスを持ち込まないようにしましょう。料理や掃除、スポーツなど、仕事を忘れて集中してできることをやるのも一つの方法です。うまく切り分けられない時には、資格の勉強や趣味を楽しんだり、新しいことに挑戦したりするなど、物理的に切り替えるのもいいかもしれません。また、家族や友人に話を聞いてもらうのもおすすめです。

■自分なりの小さな気分転換方法を見つける
ストレスはどうしても溜まるもの。限界が来る前にリセットできるのが一番です。「おいしいものを食べる」「体を動かす」「マッサージに行く」「とにかく寝る」「お風呂に浸かる」「趣味に没頭する」など、特別なことじゃないような小さな気分転換方法を見つけておいて、こまめに自分を労ってあげましょう。

事業者側がやるべき対応

■相談しやすい環境づくりに努める
何か問題が起こった時だけでなく、日頃から積極的に従業員の声を聞き、相談しやすい環境を整えるよう努めましょう。従業員が何に不安や不満を感じ、何を求めているかを把握して、改善に取り組むことです。

■メンタルヘルスに関する情報・教育の提供
メンタルケア研修を実施するなどして、従業員にストレスの気付き方、予防・対処方法などの情報を提供します。介護業界に特有のストレスを軽減・解消するため、必要な場合には事業所内外の相談窓口へつなげられるように配慮します。

ストレスチェック制度を利用して、ストレスの少ない職場環境を実現する

ストレスチェック制度は、「頑張り過ぎている・追い詰められている自分自身に気付く」「よりよい職場環境をつくるための改善点を見つける」きっかけになるものです。人手不足が常態化していて、何かと難しいことや理不尽なことも多い介護業界で長く働く・働いてもらうには、少しでも働く人の心身の負担を軽減さしなければなりません。このストレスチェック制度を利用すれば、職場状況の改善や従業員のメンタルヘルス不調の防止にもつながります。みんなが働きやすい、ストレスの少ない職場環境の実現を目指しましょう。

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本記事は2021年08月10日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもとに安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

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