クラスター発生も! 介護施設では新型コロナウイルス感染症にどう対応しているか

クラスター発生も! 介護施設では新型コロナウイルス感染症にどう対応しているか

パンデミック(世界的大流行)の発生から1年が経過するも、未だ流行収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。高齢化が加速する日本では、介護施設や病院でのクラスター(感染者集団)もしばしば発生し、社会問題となっています。パンデミックのさなか、介護施設は利用者と職員の安全のために新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)にどのように対応しているのでしょうか。


介護施設の3割、新型コロナ対応経験あり

カイゴメディアが2021年1月に実施した「新型コロナウィルスに関する介護事業所への影響アンケート」 によると、「お勤めの施設内で、新型コロナウィルスの感染者が発生しましたか?」という問いに「感染者が出た」は15.5%、「濃厚接触者が出た」は17.5%と、約3割が「新型コロナ対応経験あり」と回答しています。このように、介護業界にも新型コロナによるパンデミックの影響は出ています。

多くの施設が新型コロナ対応を余儀なくされているなか、勤務先の「感染症対策が不十分」あるいは「全く対策できていない」と感じている人は合計で約6割に上ります。また、「十分(それなりの対策をしている)」と回答していても、なかには「陽性者が発生した時の対応が不確定」「対策マニュアルはあっても、いざ発生すると現場は混乱し、対応が後手後手になる」など不安な声もあり、未曽有の事態に混乱している現場の姿が垣間見えます。

医療従事者など、いわゆる「フロントライナー」の精神的・肉体的ケアが世界中で問題となっていますが、介護施設で働く人の中にも「緊張感で心身ともに疲れた」「基礎疾患を持って働いているので、不安を抱えています」と疲労を訴える声もあり、不安や疲労を感じつつも使命感を持って働いている現場の方々が少なからずいることが伺えます。

そうした結果、「コロナの影響で、職員の人材採用に影響はありますか?」という設問には、「採用が難しくなった」が26%、「多少の影響あり」が18%と、合計で44%がなんらかの課題を感じています。一方で、半数を超える56%が「問題なし」と答えており、安心して働ける職場も多くあることが伺えます。

厚生労働省は2021年2月、緊急事態宣言発令中の東京都や神奈川県など10府県の高齢者介護施設の職員に対して、PCR検査などを集中的に実施するよう通知しました。 介護施設でのクラスター発生が相次いでいることから、早期に感染を発見するための取り組みです。検査費用は、全額、国が負担することになっています。これも、介護現場で働く人と利用者が安心して業務に取り組むための施策といえるでしょう。

感染対策と経営のバランスが課題に

新型コロナは、介護現場で働く人だけでなく、施設の経営にも影響を及ぼしています。2020年10月に淑徳大学の結城康博教授らが発表した「新型コロナ問題における在宅介護サービスの実態調査報告」 では、新型コロナによって経営が「かなり困っている」(5.6%)、「困っている」(17.8%)、「多少困っている」(40.0%)と、6割を超える介護施設で経営に影響を及ぼしていることがわかりました。なかでも、デイサービスは新型コロナの影響を特に大きく受けているようで、「かなり困っている」(13.6%)と「困っている」(29.7%)の割合が施設全体よりも高くなっています。

収入の減少具合でも、施設全体では4割が「1~3割減った」と回答しているのに対し、デイサービスはこの割合が6割に上ります。これらのことから、デイサービスは新型コロナによって経営が厳しくなっていることが伺えます。

新型コロナが介護施設の経営に影響を及ぼす背景には、感染対策でこれまで以上に衛生管理が求められ、設備や備品等の支出が増えたことが指摘されています。これは利用者や職員の安全のために、施設が真摯に感染対策に取り組んでいることの現れといえるでしょう。

ただし、この支出増はデイサービスに限らず、他の施設でも同じです。デイサービスの経営が特に厳しくなった背景には、感染への不安からデイサービスの利用を控えたり、訪問介護に切り替えたり、リモートで仕事するようになった家族が介護を担うようになったりと、利用者が減少したことがあります。加えて、「密」を防ぐために、事業者側で一度に受け入れる利用者数を減らしていることも、経営に影響していると考えられています。

一方で、訪問介護の現場では、増えるニーズに人材不足から対応できないという声も聞こえてきます。ただし、この現状は、新たに介護現場で働きたいと希望する人には就職のチャンスともいえるでしょう。

新型コロナによる支出増が介護現場の負担になるなか、厚生労働省は2020年6月、新型コロナ対策で追加された手間やコストを考慮するとともに施設の経営を安定させるため、介護事業者が介護報酬を上乗せできる特例措置、いわゆる「コロナ特例」を発表しました。

これは、新型コロナで利用者が減ったデイサービスや通所リハビリなどの通所系サービス、ショートステイなどの短期入所系サービスを対象とするもので、利用者の同意を得ることを条件に介護報酬の上乗せを認めるというものです。しかし、介護事業者が上乗せ請求をすれば、利用者側の自己負担が増えます。

そのため、先の結城教授の調査ではコロナ特例を「評価する」と答えた人が36.9%、「評価しない」が26.8%となり、現場でも賛否両論が分かれました。 利用者の負担が増えることで、利用がさらに減るのではという懸念もあるようです。

この賛否両論を巻き起こした特例措置は、新型コロナが収束するまでの時限措置となっており、2021年3月末で終了予定 です。ただ、利用者が減少した施設を引き続き支援するため、4月以降は新たな加算に切り替わることになっています。

介護現場のコロナ対策はどうしている?

それでは、介護施設ではどのような新型コロナ対策を行っているのでしょうか。

まず、ほとんどの施設が基本的な対策として、職員にマスクを着用させ、検温、手洗い・うがいを徹底させ、使用機器や施設内のアルコール消毒を実施しています。さらに、空気清浄機・加湿器の増設、施設の各出入り口やトイレにアルコール(自動消毒器)を設置するなどを行った施設もあります。

また、急な欠勤に備えて職員を例年よりも多く確保している施設もあります。職員やその家族が新型コロナに感染した場合、1週間以上の欠勤が見込まれるためです。新型コロナではない体調不良であっても、大事をとって休んでもらわなくてはなりません。人手不足を解消するために、人材派遣サービスを利用しているという施設もあるようです。

一方、入所者やデイサービス利用者に対しては、感染予防のために食事の席の配置を変更したり、外出禁止や面会の制限などの行動制限をとっています。レクリエーション時の「密」を避けるために実施時間をずらしたり、一度に参加する人数を調整したりと、利用者や職員同士の安全な距離を確保する取り組みもあります。

業者など外部の人間に対しては、施設内立ち入り禁止などの対策も行っているようです。やむを得ず立ち入りを認める場合は、多くの施設で検温や手指の消毒といった感染対策をとっています。また、万が一感染者が出た場合に備え、訪問には入退室時間や連絡先の記録を求めています。

職員・利用者の感染防止を第一に

新型コロナの感染収束が見込めないなか、介護の現場ではどういった対策をとっているのかをご紹介してきました。新型コロナは介護の現場職員の負担を増やすだけでなく、経営にも影響を及ぼしています。しかし、そうした中でも多くの施設では、職員と入所者(利用者)の安全安心を第一に新型コロナ対策を行っています。

経営の負担が増えても厳重な感染対策の下でサービスを継続する事業者に対して感謝する利用者や家族は多く、施設側もそれに応えようと努力を重ねています。

「介護職員初任者研修(旧名称ホームヘルパー2級)」の講座・レッスンを探す
本記事は2021年03月17日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもとに安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

関連する投稿


介護現場で役立つ資格・研修の種類まとめ!取得方法やメリット・難易度についても解説

介護現場で役立つ資格・研修の種類まとめ!取得方法やメリット・難易度についても解説

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会になる「2025年問題」。そんな超高齢化社会を目前に、介護サービスへのニーズの高まりも手伝って、介護業界へチャレンジする方、すでに介護業界で活躍されていてスキルアップ・キャリアップをお考えの方をはじめ、ご家族に介護が必要になったときのために正しい知識を身につけておきたいなどの理由から、介護資格の取得を検討する方が増えてきています。この記事では介護資格・研修の種類や取得メリット、資格試験があるものは難易度や合格率もあわせて紹介します。


認知症の高齢者をサポートする認知症介助士ってどういう資格?

認知症の高齢者をサポートする認知症介助士ってどういう資格?

少子高齢化が進む日本。高齢化が引き起こす社会問題にはさまざまなものがありますが、そのひとつに認知症の高齢者の増加があります。厚生労働省老健局が2019年6月に発表した「認知症施策の総合的な推進について」によると、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症という推計が示されています。そこで重要になってくるのが、認知症の人のサポートです。今回は、認知症の人をあらゆる面からサポートする認知症介助士について、その概要から資格取得方法、仕事内容、就職先についてお伝えします。


【2021年版】精神保健福祉士になるには? 国家試験の受験資格や合格率、取得後の仕事内容などをご紹介

【2021年版】精神保健福祉士になるには? 国家試験の受験資格や合格率、取得後の仕事内容などをご紹介

精神に障がいを抱えた人の社会復帰を手助けしたり、訓練を行ったりする国家資格、それが精神保健福祉士です。「精神科ソーシャルワーカー(PSW)」とも呼ばれており、福祉の世界では社会福祉士、介護福祉士と並ぶ国家資格として知られます。ストレス社会の中で心の病を抱える人が増えた現代において需要が高まっており、資格取得後は幅広い分野での活躍が期待できます。今回は、精神保健福祉士の資格取得方法や試験、お仕事内容についてご紹介します。


【2021年版】高齢者を支援する介護の仕事にはどんなものがある?(介護・高齢者福祉領域)

【2021年版】高齢者を支援する介護の仕事にはどんなものがある?(介護・高齢者福祉領域)

急速な少子高齢化によって高齢者が増え続ける日本。しかし核家族化が進んでいることもあり、高齢者や高齢で障がいを持っている方への支援は家族だけでは限界があります。そこで需要が高まっているのが、介護関連のお仕事です。そこで、今後も高い需要が見込まれる介護職でも特に高齢者領域にかかわるお仕事についてご紹介します。


【2021年度版】介護職の職場環境を改善する「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」はどういう制度?

【2021年度版】介護職の職場環境を改善する「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」はどういう制度?

団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて、介護人材の需要が高まっています。しかし残念ながら、介護職の給与は他業種に比べて高いとは言えないのが現実です。そのため、介護業界での長期的なキャリアを視野に入れて活躍する人は少なく、年間を通じて新規職員を採用する事業所も少なくありません。政府はこうした現状を打開するために、介護職員の待遇改善を図るさまざまな政策を打ち出しています。今回は、経験・技能のある介護職員の処遇を改善し、介護職のキャリアパス整備を目指す制度である「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」についてご紹介します。


最新の投稿


ベリーダンスに向いている人は?おすすめの教室やはじめる際の注意点を紹介

ベリーダンスに向いている人は?おすすめの教室やはじめる際の注意点を紹介

ベリーダンスは、腹部を中心に体を動かすダンスで、古代から中東地域で発展してきました。近年、世界中でその美しさや健康への良い影響が注目されています。この記事では、ベリーダンスについて詳しく紹介し、どのような人がベリーダンスに向いているのか、その魅力、ベリーダンスを始める際に役立つ情報を紹介します。


美しく長生きするために☆体の道筋を通す「美容整体」

美しく長生きするために☆体の道筋を通す「美容整体」

皆さま、整体に対してどのようなイメージでしょうか? 「身体が整う」 「肩こりが解消される」 「歪みのケア」 など、様々な効果をイメージされると思いますが、私が考える1番の素晴らしい効果は【身体の道筋を通すこと】です。 身体の道筋とは、様々です。 例えば、血管、リンパ管など、目に見えるの。 また、経絡やセンなど、目には見えないエネルギーの通り道。 どちらも欠かすことのできない大切な通り道です。 整体では、身体に存在する無数の通り道を開放し、血液、リンパ、エネルギーなどすべての循環ができる体の土台作りを行います。


【2024年】子供の習い事 人気おすすめ10選!費用相場や選び方の注意点も紹介

【2024年】子供の習い事 人気おすすめ10選!費用相場や選び方の注意点も紹介

子供が成長する過程で、「どんな習い事をさせようか」と頭を悩ませる親御さんは多いでしょう。子供たちは習い事を通じて新しいことを学び、社会性や協調性を身につけることができます。また、自分の得意なことを見つけたり、将来の夢を育むきっかけにもなります。しかし、何を基準に習い事を選べばいいのか、費用はどれくらいかかるのか、といった疑問も多いはず。この記事では、子供に人気の習い事とその選び方、習い事をさせることのメリットや注意点について詳しく解説します。


アーユルヴェーダとは?心身のバランスを整えるマッサージ効果や資格取得メリットを紹介

アーユルヴェーダとは?心身のバランスを整えるマッサージ効果や資格取得メリットを紹介

古くからインドで伝わる「アーユルヴェーダ」は、健康や美容に関心がある方々の間で注目されています。現代社会では、ストレスや不規則な生活が常となり、身体や心のバランスを保つことが一層重要になってきました。そんな中、アーユルヴェーダは自然治癒力を高め、心身のバランスを整える手法として、多くの人々に受け入れられています。この記事では、アーユルヴェーダの基本的な知識から、実践的なアプローチ、さらにはその資格取得のメリットまで、幅広くご紹介します。


【アロマオイルの楽しみ方】精油☆手作りポプリで美空間

【アロマオイルの楽しみ方】精油☆手作りポプリで美空間

皆様、ごきげんよう、リラクゼーションサロンの癒しの技術が学べる--1DAY講座スクール--メディックス ボディバランスアカデミー講師の境瑠美です 私の大好きな精油を紹介いたします