高齢化社会でニーズ高まる、「自分らしい死」をサポートする看取り介護

高齢化社会でニーズ高まる、「自分らしい死」をサポートする看取り介護

高齢化社会の今、人生最後のときを穏やかに自分らしく迎えたいという希望を持つ方が増えています。今後、2040年頃には死亡数が最大に達するとされ、看取りの需要は今まさに高まっているところです。こうした社会的なニーズに加え、2006(平成18)年の看取り介護加算の追加によって、看取り介護を実施する介護施設が増えてきました。今回は、介護における看取りとはどのようなものなのか。そして、看取り介護と、緩和ケア、終末期ケア、エンゼルケアにはどのような違いがあるのかを説明します。また、看取りをサポートする関連資格についてもご紹介します。


介護における「看取り」とは

人生の最期をケアする行為のことです。全国老人福祉施設協議会の「看取り介護実践フォーラム」(2013年度)によると、看取りとは「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」とされています。

看取り介護が求められるようになった背景には、高齢化による多死社会の到来が危ぶまれていることがあります。死者が増えれば医療機関の病床を圧迫し、看取り場所が足りなくなる……という事態も考えられるからです。そうした「看取り難民」の発生を防ぐため、介護施設での看取り介護体制の充実が進められてきました。

その1つが、2006年の介護報酬の改定で看取り介護加算が創設されたことです。これによって、看取り介護を実施する介護施設は増えてきています。看取り介護加算とは、医師が回復の見込みがないと判断した場合、最期までその人らしい人生を送ることができるように、利用者本人や家族の意思を尊重し、医師、看護師、介護スタッフが連携して看取りをする場合に算定する介護報酬のことです。

具体的には、次の5条件を満たした場合に、看取り介護加算は算定できるとされています。なお、対象となる事業者は「特別養護老人ホーム」「グループホーム」「特定施設入居者生活介護」に限られています。

(1)常勤の看護職員、病院や指定訪問看護ステーションなどと24時間連絡がとれる体制である

(2)看取りに関する指針を策定し、入所時に入所者とその家族に説明し、同意を得る

(3)医師、看護職員、ケアマネージャー、介護スタッフなどが看取り介護について協議し、適宜、指針を見直す

(4)事前に、看取り介護に関する研修を実施する

(5)看取り介護は個室または静養室などで提供し、入所者とその家族、周囲の入所者に配慮する

ただ、看取り介護の拡大には問題もあります。最も大きなのは、現場の看護師や介護スタッフの精神面での負担が増えることですが、それだけではありません。医療機関との24時間体制での連携構築や看取り介護の職員研修、看取り介護のための人員配置や設備の見直しなどの対策が必要となり、施設にとっても負担が大きいからです。避けて通れないことだからこそ、真摯に向き合って、対策を講じていく必要があります。

看取り介護と緩和ケア、終末期ケア、エンゼルケアとの違い

看取り介護と混同されやすい用語として、「緩和ケア」「終末期ケア(ターミナルケア)」「エンゼルケア」があります。それぞれ似ていますが、大きく分けて医療行為があるかないかの違いがあります。

まず、緩和ケアとは、 重い病をわずらっている人の気持ちや身体のつらさを軽減するためのケアです。精神的なつらさや悲しみ、身体の痛みに加えて、日常生活の負担、治療費や就業に関する経済的な不安まで、さまざまな苦痛を和らげることを目指します。

次に終末期ケア(ターミナルケア) とは、死を前にした人の生活の質(QOL)を高めるためのケアです。緩和ケアの一種と考えてよいでしょう。病気による苦痛や不快な症状を取り除き、精神的な平穏を保って、残された時間での生活の充実を目指します。

最後にエンゼルケア とは、死後に行う処置を指します。医療器具を外したあとの処置、傷の手当て、身体の清拭、着替え、死化粧などを行います。エンゼルケアの目的は大きく2つあります。1つは感染症の予防など衛生面を保つため。もう1つは、闘病や死によって変化したご遺体の姿かたちを整えることで故人の尊厳を保ち、遺族の心のケアをするためです。

看取り介護の認定講座2選

このように、近年注目が高まる「看取り」の問題。自分や身近な人が大切な人を送り出すとき、家族を亡くした方を仕事として支援するときなど、いざという時に役立つ講座や資格を紹介します。

看取りの知識やスキルを身につける「看取りケアパートナー」講座

「看取りケアパートナー」は、一般社団法人みんなのプライドにより認定される民間資格です。ユーキャンが通信講座を提供しており、3ヵ月で資格取得が目指せる効率的カリキュラムとして人気があります。

講座では、幅広い内容を網羅した2冊のテキストを用います。「看取り」とは何か、「死」との向き合い方から始まり、看取りを実践するための技術的な知識、看取りの実践において利用できる国や地方自治体の制度なども学習します。

さらに、治療や介護、緊急対応が必要になる場合に備えて、本人の意思決定ができなくなる前に希望を書き込む「看取りケアノート」や、看取りに関わる便利な情報がまとまった「看取りケアハンドブック」もついてきます。

高齢のご家族をもつ方、ご家族に対して不安を抱えている方。介護・医療業界で終末期医療に関わる方や行政書士、ファイナンシャルアドバイザーなどのお仕事をされていて看取りの知識を身につけたいという方に向いています。

講座名:看取りケアパートナー
対象:初心者レベル
受講期間:3~6ヶ月
添削:3回
送付物:メインテキスト/看取りケアノート/取りケアハンドブック/添削課題集/ガイドブック
費用:【受講料】29,000円
お支払い方法:分割可、カード可

臨床ケアにおけるスペシャリスト「終末期ケア専門士」

終末期ケア専門士は、日本終末期ケア協会が認定する民間資格です。エビデンスに基づいたケアを実践し、患者や施設利用者の一番近くで「支える人」を育成する、臨床における終末期ケアのスペシャリストを目指します。資格を取得するには、日本終末期ケア協会が主催する資格試験を受ける必要があります。受験概要は次の通りです。

■受験料:10,000円
■試験場所:会場受験
■試験時間:90分
■出題数:90問(択一または択多問題)
■受験資格
・経験2年以上
医師/歯科医師/看護師/保健師/薬剤師/理学療法士/作業療法士/言語聴覚士/臨床工学技士/歯科衛生士/管理栄養士/介護支援専門員/社会福祉士/精神保健福祉士/臨床検査技師/公認心理師/救急救命士/放射線技師/介護福祉士(介護士と介護福祉士の実務経験が合算して3年以上あれば受験可)
・経験3年以上
栄養士/准看護師/臨床心理士/音楽療法士/介護士(介護福祉士実務者研修修了証のコピーの提出が必要)

終末期ケア専門士の資格を取得後は、終末期ケアの知識とスキルだけでなく、チームリーダーとして活躍するための上級資格「終末期ケア上級専門士」、地域貢献活動を通じて終末期ケアを伝える専門アドバイザーである「JTCAアドバンスインストラクター」といった資格も目指せます。

看取り介護へのニーズはますます高まっていきます

世界でも類を見ない超高齢化社会の到来で、「死」はますます身近なものとなっていくことでしょう。自分らしい生のあり方や最期を求める人が増える中、死者数が最大となる2040年に向けて、看取り介護へのニーズは今後しばらくの間、高まっていきます。特に介護職員や医療従事者には、介護の先にある看取りを支援することが求められるでしょう。自分が後悔しないため、身近な人を支えるためにも、「自分らしい死」をサポートする看取りについて学んでみるのはいかがでしょうか。

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本記事は2021年09月03日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもとに安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

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