調剤事務って、どんな仕事なの?
病院や診療所では、医師が患者さんを診察し、薬物治療が必要なときに、病院や診療所の中で薬を渡す、あるいは処方箋を発行します。現在、院外の薬局で調剤する処方箋の発行率は80%近くまで増え、その処方箋を調剤する薬局は全国で6万軒を超えるまでになりました。
処方箋を調剤する薬局には、必ず薬剤師がいます。でも、薬局にいるのは薬剤師だけではありません。薬剤師だけの薬局もありますが、薬剤師をサポートする調剤事務を担当する人がいることが多いです。
なぜ、調剤事務を担当する人がいるのか。そう思うかもしれません。その理由は、日本の国民皆保険制度にあります。公的な医療保険制度によって、患者さんは薬代を全額自費で支払わなくても、一部負担金だけで薬を受け取ることができます。しかし、この制度を維持するには、調剤報酬の計算や請求といった膨大な事務作業が発生します。
たとえば、医療保険。日本の医療保険は、公務員やサラリーマンが加入する被用者保険、自営業などが加入する国民健康保険、75歳以上の高齢者などが加入する後期高齢者医療保険に分かれており、いずれかの保険が適用されます。さらに、被用者保険は運営主体によって、企業単独あるいは共同で設立する組合健保、公務員や私立学校の教職員を対象にした共済組合、組合健保を設立しない企業を対象とした協会けんぽなど、細かく分類されています。また、生活保護法や障害者総合支援法などに基づくさまざまな公費負担医療もあります。
しかも、調剤報酬を計算するための調剤報酬点数は、2年に一度、改定されます。それも、ただ点数が変わるだけではありません。最近では、評価対象となる薬剤師業務が追加される傾向もあります。 薬の費用が定められている薬価基準も、毎年、改定されています。そのため、薬局では患者さんに適用される各種制度を確認し、制度 の改定を踏まえて調剤報酬を計算しなければならないのです。
これだけではありません。調剤事務の仕事には、難易度の高い調剤報酬請求の仕事も含まれます。日本の医療保険制度では、患者さんが支払う一部負担金以外の費用は、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会(審査と保険者からの支払いを代行する)に請求することになっていますが、誤って請求すると調剤報酬請求書が差し戻されて支払われません。また、期限内に間に合うように請求しないと、予定日に支払われることもありません。これは、薬局の経営にもかかわってきますから、注意深く処理する必要があります。
このように保険調剤に必要な事務作業を行い、薬剤師が薬学的業務に専念して医療の質の向上につながるようサポートするのが調剤事務という仕事なのです。
一般的な調剤事務の仕事の1日の流れ
それでは、薬局で患者さんから処方箋を受け取り、薬剤師が患者さんに薬を渡すまでの間に、どのような仕事を調剤事務の担当者が行っているのかを紹介します。
病院や診療所で処方箋を受け取った患者さんは、処方箋を薬局に持っていきます。薬局によって異なりますが、受付に調剤事務の担当者がいて、処方箋を受け取る場合が多いようです。患者さんは処方箋を全国どこの薬局に持っていくかは自由。ですから、最初に処方箋を受け取る調剤事務の担当者は、患者さんに好印象をもたれるよう心がけなければなりません。
処方箋を受け取る際には、薬の飲み合わせを薬剤師が確認できるよう「お薬手帳」を持っているかを確認します。また、ジェネリック医薬品(効く成分は最初に開発された薬と同じだけれど安く提供できる薬)の希望も尋ねます。いまや80%を超える人がジェネリック医薬品を選ぶようになっており、国の方針もジェネリック医薬品を推奨する方向が示されているので、この確認はおろそかにできません。
初めて来局した患者さんの場合には、処方箋の保険者番号などの記載が間違っていないか、保険証を見せてもらい確認したり、患者さんの副作用やアレルギー歴などを患者アンケートに記載してもらったりします。
薬剤師は、処方箋と併せて患者アンケートや薬歴(患者さんごとの体質や薬などの記録)、お薬手帳を確認し、薬や量はあっているか、患者さんに副作用やアレルギーが起こった薬ではないか、一緒に飲んでいる薬と飲み合わせが悪くないかなど、薬学的なチェックを行います。必要に応じて、医師に問い合わせしたりもします。
一方、調剤事務の担当者は、処方箋の内容を調剤報酬が計算できるレセプトコンピュータに入力していきます。薬の名前や量、使い方についても入力しますので、誤入力がないよう注意が必要です。一般的なレセプトコンピュータでは、薬袋(薬を入れる袋)、 お薬手帳に貼る処方内容のシール、領収書などをプリントアウトできますから、これらを揃えて薬剤師に渡します。
薬剤師は、調剤事務の担当者から渡されたものと処方箋をチェックし、問題がなければ、薬の取りそろえ、粉薬や水薬などの計量・混合、錠剤やカプセル剤の1回分ずつパックなどを行います。このうち、薬の取りそろえを調剤事務の担当者がサポートしている薬局もあります。これは、厚生労働省通知で「薬剤師以外の者が実施できる業務の具体例」として、薬剤師が最終確認を行う前提で「PTPシート又はこれに準ずるものにより包装された医薬品」の必要量を取りそろえることが認められているためです。このようにして薬などが準備されたのち、薬剤師は患者さんに説明をしながら薬を渡して一部負担金を受け取ります。
上記以外にも、納品された薬を調剤室内の棚に収納するのも調剤事務の仕事です。また、患者さんの数に比べて薬剤師の数が少ない薬局では、調剤事務の担当者が行う仕事も幅広く行っています。
月に一度の調剤報酬請求、これも調剤事務の仕事です
上述した調剤事務の仕事は毎日の業務ですが、月に一度、発生する仕事があります。それが調剤報酬請求です。
処方箋を調剤したときの費用は、患者さんから一部負担金を受け取りますが、残りは毎月1ヵ月分をまとめて、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会に請求します。請求時には患者ごと、医療機関ごとに調剤報酬明細書(レセプト)を作成するのですが、この業務は前述したとおり難易度が高い仕事です。
しかし、レセプトの作成は経営にもかかわってくる重要な仕事です。ですから、調剤報酬請求までできる医療事務の担当者は、薬局で重用されます。
調剤事務を行うために、知っておくべきこととは?
調剤事務を行うために最初に覚えることは、処方箋に書かれている形式的な事項です。患者さん の名前、生年月日、保険の種類と患者負担割合などの確認です。患者負担割合を確認するのは、患者さんの一部負担金を計算するためです。
次に、処方箋に書かれている処方内容の形式を覚えます。処方箋に書かれた処方内容に関する薬学的なチェックは薬剤師が行いますが、レセプトコンピュータへの入力は調剤事務の担当者が行うからです。
このとき特に注意しなければならないのが、薬の名前です。薬の名前には一般名と商品名がありますが、国がジェネリック医薬品(一般名が多い)を推奨していることもあり、最近の処方箋は一般名と商品名が混在しています。つまり、薬の名前を区別できなければ、レセプトコンピュータへの入力もスムーズに行えないのです。しかも、ジェネリック医薬品を使用しない場合は、その理由を入力する必要もあります。そのため、薬の名前についての理解は必須と言えるでしょう。
また、処方箋に記載される薬の量の書き方も覚える必要があります。飲み薬は、薬の名前の横に1日分の量が書かれますが、塗り薬などは全量が記載されます。薬の使い方についても、たとえば1日3回であれば、「1日3回」「分3」「3×」など、記載方法は医師によって異なりますので、どのような書き方があるのかを知っておかなければなりません。
さらに、調剤報酬点数は2年に一度の改定があります。主に4月1日からいっせいに切り替わりますので、知識の更新も必要となります。
調剤事務の仕事のお給料、どのくらい貰えるの?
調剤事務の仕事は専門的な知識がなければ、行うことができません。そのためお給料は、月給で17~25万円程度、パート・アルバイトでも、時給の相場は1,100円~から1,500円程度と、一般事務と比べると高めであることが多いようです。
調剤事務の仕事に技能認定は必要か?
調剤事務の仕事は、未経験可の求人もあります。未経験可で募集している場合は、仕事をしながら学ぶ前提ですので、必ずしも技能検定を取得しておく必要はありません。
しかしながら、医療保険や公費負担医療制度の種類はさまざまで、処方箋に記載されている事項についても専門的なことが多いことから、体系的に学んだ基本的な知識を持っていたほうが仕事はスムーズにできるでしょう。
薬局としては、技能認定を持っていれば、基本的な知識があることがわかることから、即戦力として期待することもできます。つまり、技能認定があれば就職にも有利ということです。
薬局で薬剤師をサポートする調剤事務の仕事は、医療の仕事のため景気に左右されない安定した職業です。薬局は全国に数多くあるため、調剤事務の求人も全国的にあります。未経験でも応募できますが、専門的な仕事のため、できれば基本的な知識を勉強しておくことをお勧めします。
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