『虹舟』という二文字
かねてより私は、書作品創作の際、同じひとつの文字を繰り返し追及し、創り上げていくタイプではないのですが、唯一書き続けている文字があります。それは『虹舟』という二文字です。初めは78㎝×180cmの紙に横書きに並べ濃墨で揮毫、そして次は青墨で揮毫してみました。しかし納得のいく作品の完成は叶わず思案していた折、2012年のツアーで訪れた、シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズホテル」を眺めたとき、な・な・なんと…
細長い舟がホテルのてっぺんに乗っている!?
そう!細長い舟がホテルのてっぺんに乗っているではないですか!?
その天空の舟から少し離れた場所では、マーライオンの口から吹き出る水に太陽の光が差し込み、ほのかな七色のアーチを描いていました。書作品創作のヒントはこんなところにあるものなのです。
それを観た瞬間、虹の上に細い舟を乗せた形の構図で『虹舟』という文字を書いてみようと思い立ったのでした。
名作「フランダースの犬」の最終話から生まれた作品…『昇天』
『昇天』という作品も2014年、ヨーロッパツアーでスイスの大聖堂を訪れた時、(国こそ違いますが)フランダースの犬の最終話がふと頭に甦ってきました。主人公のネロが憧れのルーベンスの絵の前で愛犬のパトラッシュとともに天に召されてしまう…というあの名場面です。何とかこのイメージを書作品にできないものか…と日本に持ち帰り悪戦苦闘。常識的に考えると、邪道である文字の重なりは、「どうしようもない運命へのあがき」を、自分なりに表現した結果です。
『鰯雲』…それは、高く澄んだ秋の空に広がる日本の素晴らしい情景。
モンマルトルの丘からは、市内が一望できました。白を基調とした、高さの違うさまざまな建物が立ち並び、その美しさというもの…まさに奇跡。この旅で改めて感じたもう一つの大きなことは世界の空と雲の美しさ。でも、日本の空にはもっともっと美しい情景がある…高く澄んだ秋の空に広がる『鰯雲』…
我が師匠の言葉がきっかけに。
以前我が師匠が、「電車に乗ると、いつも向いの窓ガラスの四角い世界を眺め、自らが書こうとする文字をどのように収めるかを常に考えているよ。」と申しておりました。この言葉は、いつも私の頭の片隅に残っています。書作品を創作するヒント…それは、こんな旅先の風景の中にもあるものだ。と実感いたしました。作品を言葉で説明するのはいかがなものか…というご意見も多々あるかと思いますが、書作品を身近に楽しむ一つの手段としてご理解いただければと思っております。
1964年大阪府泉佐野市生まれ。青霄書法会主宰。大阪市内を中心に教室運営。メディア出演ライブパフォーマンスなど精力的に活躍。